飲食店は、新規開業が活発に行われる一方で、廃業率も非常に高い業種といえます。成功するには、この業界の厳しい競争環境と廃業に至るまでの背景を理解し、対策を講じるのが重要です。
そこでこの記事では、飲食店の廃業率が高い理由や潰れない店の特徴について解説します。廃業を回避する対策も紹介しているので、飲食店の開業を検討している方や既存ビジネスを強化したい方は、ぜひ参考にしてみてください。
飲食店の廃業率の実態
引用:中小企業・小規模事業者の現状|第1-1-37図「業種別の開廃業率」
2022年に実施された中小企業庁の調査によると、飲食業(宿泊業含む)の廃業率は5.6%に達し、他の業種と比較して廃業率の高い業界です。一方、開業率も17.0%と業界内でも突出しており、飲食業界の激しい競争と活発な市場の入れ替わりを示唆しています。
一般的に、飲食店は開業後1年以内に約30%が廃業し、10年以内には90%が市場から退くとされています。この高い廃業率は、流行の変動やさまざまな業態による影響が大きいことが要因です。
また、異業種からの参入が多く、新規参入者が容易に業界に足を踏み入れられることも、この動きを加速しています。飲食業は、リスクとチャンスが共存する業界であると言えるでしょう。
飲食業の倒産動向
東京商工リサーチの「飲食業の倒産動向」調査によると、2023年の1月から8月までの期間における飲食業の倒産件数は569件に上り、これは2022年全体の倒産件数をすでに超えています。
特に、宅配飲食サービス業が前年同期比で192.8%増と最も増加率が高く、持ち帰り飲食サービス業が145.4%増、専門料理店が103.1%増、食堂やレストランが100.0%増と続いています。
引用:「2023年(令和5)年(1~8月)飲食業 業種小分類別倒産状況」東京商工リサーチ調べ
倒産の主な原因は販売不振で、468件が記録されており、前年比85.7%の増加です。この背景には、人手不足による人件費の上昇、食材や光熱費のコスト増が考えられるでしょう。
また、過去の赤字の蓄積や他社倒産の影響など、不況型倒産が全体の88.5%を占めるなど、飲食業界全体が景気の悪化の影響を深刻に受けていることが窺えます。
引用:「2023年(令和5)年(1~8月)飲食業 原因別倒産状況」東京商工リサーチ調べ
飲食店の廃業率が高い8つの理由
廃業率が高いといわれている飲食店の理由を解説します。主に次の8つが挙げられます。
- 初期投資額が大きい
- 運転資金が不足する
- 戦略や計画性が欠けている
- 集客ができていない
- やり直しにコストがかかる
- 人手不足に陥りやすい
- 経営者の年齢が高い
- 自分好みにこだわりすぎている
項目ごとに詳しくみていきましょう。
1.初期投資額が大きい
飲食店を開業する際、10坪〜15坪の店舗で約1,000万円の初期投資が必要です。居抜き物件やDIYによる節約策もありますが、最低でも500万円は見積もる必要があるでしょう。
また、理想の店舗を目指すあまり、高額な初期投資につながることも少なくありません。初期投資額が増加するほど、投じた費用の回収期間も長くなり、ビジネスの持続性に影響を及ぼすリスクが高まります。
さらに、開業後には予期せぬ出費が発生することもあり、これが経営の大きな負担となることがあります。したがって、開業時の初期投資を如何に抑えるかが、経営者にとって重要な課題となるのです。
2.運転資金が不足する
多くの飲食店が直面する大きな課題のひとつが、運転資金の不足です。開業資金に多くを投じるため、運用中の資金が枯渇し、結果として廃業に至るケースが頻繁に見られます。
飲食店を開業する際は、初期の設立費用だけでなく、運営を持続させるための十分な運転資金も必要です。特に開店直後に予想外の少ない客足に見舞われた場合、家賃や人件費、仕入れ費などの運営コストを賄うための財政計画が求められます。
運転資金の必要額は店舗の規模や業態に応じて異なりますが、オーナーの生活費とスタッフの給料を含めた6ヶ月〜8ヶ月分の運転資金は見積もっておきましょう。これにより、事業が黒字化するまでの期間を安全に乗り越え、廃業のリスクを軽減することが可能です。
3.戦略や計画性が欠けている
飲食店が短期間で廃業する主な要因には、充分な準備、計画、戦略が欠如している点が挙げられます。効果的なマーケティングリサーチを行わず、感覚的に店を開くケースは珍しくありません。
「資金が溜まった」や「料理の腕に自信がある」などの理由で勢いよく開業しても成功は難しく、美味しい料理だけでは、店を繁盛させることは困難です。
事業を継続するためには、顧客のニーズを把握し、価値ある商品を継続して提供することが重要です。これには、開業前に予定している業態や地域の市場調査、集客戦略の策定、メニューや価格の設定を含む事業計画の慎重な策定が必要といえます。
また、顧客のニーズと合わない場合は、事業方針を見直すことも大切です。
4.集客ができていない
飲食店経営者は、調理の専門家としてキャリアを積んでいますが、集客の知識が不足しているケースがしばしば見られます。
多くの料理人は「美味しい料理を提供し続ければお客様は自然と来店する」という理想論に囚われがちですが、現実はそう甘くありません。実際は、集客のための具体的な戦略や知識がないと、店舗の知名度を高め、安定した顧客層を築くことは難しいのです。
効果的な集客を行うためには、市場のニーズを理解し、目に見える形で店舗をアピールする戦略が必要になります。そのためには、マーケティングの基本を学び、適切な宣伝活動を行うことが集客成功のポイントです。
5.やり直しにコストがかかる
飲食店経営において、業態のリニューアルや変更は経済的な負担が大きいプロセスです。経営環境が変化する中で適応を図るためには、相応の資金と時間が求められます。
多くの店舗が経済的余裕がないために、必要な変更を行えずに経営を続けることがあります。その結果、市場の要求に適切に応じられず、経営がさらに困難になることも少なくありません。そのため、開業時から事業計画には柔軟性を持たせ、ある程度の経済的余力を確保しておくことが重要です。
これにより、状況の変化に迅速かつ効果的に対応することが可能となり、ビジネスの持続可能性が高まります。
6.人手不足に陥りやすい
飲食業界は、他業界に比べて労働条件が厳しいにもかかわらず低賃金であることや、研修期間が短いなどの問題から、従業員の離職率が高く、人手不足に陥りやすいです。
厚生労働省の「令和2年賃金構造基本統計調査」によると、飲食サービス業の賃金は他の高収入業種に比べて明らかに低く、この賃金格差が人材確保を困難にしています。さらに、コロナウイルスの影響で客足が遠のき、売上が低迷する中、人手を確保することが一層難しくなっています。
このような背景から、飲食店では人手不足が慢性的な問題となり、経営の持続が危ぶまれることも少なくありません。事前に効果的な人材確保策や、人手不足が発生した際の対策を講じることが、店舗の存続には不可欠です。従業員が安定して働ける環境を整えることが、経営安定の鍵となります。
7.経営者の年齢が高い
業態 | 60歳以上(全体) | 60歳以下(全体) |
一般食堂 | 54.5% | 45.5% |
料理店 | 55.8% | 44.2% |
喫茶店 | 47.1% | 52.9% |
厚生労働省の調査によると、飲食業界では経営者の高齢化が顕著に進行しています。統計によれば、60歳以上の経営者の割合が全体の約半数に達しており、この数字は今後さらに増加する見込みです。
特に一般食堂では後継者がいるケースが57.0%、料理店では63.8%となっており、喫茶店も50.5%と後継者問題が深刻です。これにより、高齢で後継者が不在の場合、事業の継続が困難になり、廃業を検討せざるを得ない状況に直面しています。
8.自分好みにこだわりすぎている
飲食業界はトレンドの変化が激しく、過度なこだわりは時としてビジネスの障害となります。経営者が自分の好みに固執することで、提供サービスと顧客の期待との間にギャップが生じ、その結果、事業が短期間で終わることも珍しくありません。
店舗を開業する際は、地域にあった味付けや、雰囲気づくりにも配慮し、顧客のニーズに敏感であることが重要です。さらに、コンセプトと品質の維持も不可欠です。
日々の忙しさに追われる中でも、ビジネスの本質を見失わないよう心がけることが、持続可能な運営につながります。
飲食店の廃業を回避する対策は4つ
飲食店の廃業を回避するには、状況に応じた対策を実施することが大切です。主に次の4つが挙げられます。
- 支管理を徹底する
- 継続的に販促活動をする
- QSCを向上させる
- 業種や業態を変える
それぞれの内容について詳しくみていきましょう。
1.収支管理を徹底する
収入と支出の適切な管理は、売上低下による資金繰りの悪化を避けるために不可欠です。まずは現在の収支状況を正確に把握し、原材料費や人件費など、削減可能なコストを見直しましょう。
ただし、人件費の削減には注意が必要で、従業員の満足度を低下させることなく、オペレーションの効率化やマニュアル化を進めるべきです。このような改善を行うことで、無理なく経費削減が可能となります。
また、家賃や光熱費などの固定費が高い場合、利益率の向上には限界があるため、コストパフォーマンスの良い立地への移転も考慮することが望ましいです。収支管理を徹底することで、ビジネスの持続性が高まります。
2.継続的に販促活動をする
開店当初は積極的に宣伝をしていても、時間が経つにつれてその勢いが衰えてしまうケースは少なくありません。流行の移り変わりや顧客の趣向が変化しやすい飲食業界では、常に最新のニーズやトレンドを捉え、時代に応じたサービスや情報を提供することが不可欠です。
顧客に合わせた販促活動を継続的に実施し、市場の動向に応じた新メニューやサービスの開発にも注力しましょう。また、SNSを含むデジタルマーケティングを活用して定期的に情報を更新することで、ターゲット層の認知度を高め、新規顧客の獲得に繋げることができます。
3.QSCを向上させる
QSC(Quality(品質)、Service(接客)、Cleanliness(清潔さ))は、飲食店経営において重要な3つの柱です。
QSCの向上には、作業のマニュアル化、チェックシートの導入、業務手順の統一が有効です。これにより、従業員全員が一定の基準に沿ったサービスを提供できるようになります。
また、顧客からフィードバックをもらうためにアンケートを行い、サービスの改善点を明らかにするのもおすすめです。これにより、店舗の強みを活かしたサービス改善につながり、顧客満足度を高めることができます。
4.業種や業態を変える
顧客や情勢の変動にあわせて、業種・業態の転換を図ることは閉店を防ぐための効果的な戦略です。特に新型コロナウイルスの影響でリモートワークが増加し、消費者の行動パターンが変わったことにより、飲食業界におけるニーズも大きく変化しています。
テイクアウトやデリバリーサービスへのシフトは、この変化に適応するための一例です。このように柔軟に業態を変更することで、新しい顧客層を引きつけ、事業の持続性を高めることが可能になります。
飲食店の廃業率でよくある3つの質問
最後に、飲食店の廃業率でよくある質問にお答えします。
- 質問1.廃業しない飲食店の特徴は?
- 質問2.飲食店が潰れる前兆はある?
- 質問3.飲食店の廃業の流れは?
それぞれ詳しくみていきましょう。
質問1.廃業しない飲食店の特徴は?
廃業しない飲食店の特徴には、次のような点が挙げられます。
- 下積み経験がある
- 効果的な販促宣伝を行っている
- お客様を大切にしている
下積み経験により、大手にはない独自のサービスや技術で差別化を図ることが可能です。また他店を分析し、自分の経営に活かす役割もあります。
そして、効果的な販促活動も成功の鍵を握ります。特に現代では、SNSを利用したマーケティングが中心となり、ターゲット顧客にリーチする新しい方法が求められています。
何より、お客様を大切にする姿勢が重要です。顧客が望むものを理解し、応えることで地域社会に長く愛される飲食店となるでしょう。
質問2.飲食店が潰れる前兆はある?
飲食店が閉店へと追い込まれる兆候にはいくつか共通点があります。主なチェックポイントは、次のとおりです。
- 提供までの時間が長すぎる
- メニューの種類が減少している
- 衛生状態が悪化している
- キャンペーンや割引を頻繁に実施している
- スタッフがすぐに入れ替わる
- 常連客のみに依存している
- 顧客数が減少している
これらのポイントは顧客満足度に関わり、放置すると顧客の流出を引き起こす可能性があります。
また、店舗情報(ウェブサイトや看板など)を常に最新の状態に保つことも重要です。古い情報は顧客に混乱や不信感を与える原因になります。
質問3.飲食店の廃業の流れは?
飲食店の廃業を決定した場合、複数の手続きが必要です。これには契約解除、従業員や取引先への通知、各種機関への届出などが含まれます。以下は一般的な廃業までの手順です。
- 不動産管理会社に契約解除を通知(テナント契約の場合)
- 従業員への廃業および解雇通知
- 取引先への通知
- 税務署や保健所、警察署などへの届出
- リース契約している機器や備品の返却
- 保険契約の解約
- 公共サービス(電気、ガス、水道)の停止
- 店舗備品の処分または売却
各種届出には、飲食店営業許可の返納、雇用保険の事業所廃止届、労働保険の確定保険料申告書などが含まれます。特に重要なのは、従業員への適切な解雇手続きを行い、労働基準法に従った適切な通知期間と手当を確保することです。
業種や状況に応じて必要な手続きが異なるため、事前にしっかり確認しておきましょう。
まとめ
ここまで、飲食店の廃業率とその背景、廃業しないための回避策について詳しく解説しました。飲食店は開業が比較的容易な一方で、長く続けるのが難しい業界でもあります。
その主な理由には、「初期投資が高額である」「運転資金が不足する」「計画性が欠如している」「
体力的・精神的な負担が大きい」ことが挙げられます。
財務管理の徹底、効果的な集客戦略の実施、そして経営やマーケティングの知識を身に付けることが成功への鍵です。飲食店経営は難しいですが、これらのポイントに注意して計画的に進めれば、やりがいのある業種のひとつと言えます。