
原状回復工事の費用を少しでも抑えたい方や賃貸物件の契約に関するトラブルを避けたいと考えている方もおられるのではないでしょうか。「現状復帰」と「原状回復」の違いを理解するのは、店舗経営や物件の賃貸借において非常に大切です。
本記事では、「現状復帰」と「原状回復」の違いや原状回復の種類、必要なケースをご紹介します。また、費用を削減するポイントやよくある質問も解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

「現状復帰」と「原状回復」の違いとは?

現状復帰とは、現在の状態へ戻すことを指し、原状回復は借りた当初の状態に戻すという意味です。賃貸住宅やオフィスの退去時は一般的に、初めに借りた時点の状態に戻すために原状回復を実施します。
一方、現状復帰は、地震などの災害で建物や住宅設備が損傷を受けた際に使用される場合が多いです。被災した賃貸物件に引き続き住む場合は、居住環境の維持のために現状復帰が求められます。
「原状回復」と「原状復帰」の違い
「原状回復」は賃貸契約に関する法律用語であり、借りた物件を返却する際に元の状態に戻すことを指します。賃貸物件の退去時において、入居時と同じ状態に戻すための措置に使用されるのが一般的です。
一方、「原状復帰」は建設用語であり、主に建設業者の間で使用される表現です。たとえば、工事後に土地を元の状態に戻す場合に使用されます。
また、「現状回復」という言葉をまれに見かけますが、これは誤りです。正しくは「原状回復」であり、被災地の復旧などの文脈で「原状復帰」が使われる場合があります。

飲食店の原状回復工事が必要なケース

店舗として利用した物件の原状回復は、基本的にすべて借主が自己負担で実施します。飲食店では、水回りの工事が必要になる場合が多く、費用が高額になりやすいため注意が必要です。
- 内装、外装の解体、撤去
- 厨房設備や管理設備等の撤去
- 電気系統や水回り設備の撤去
- 天井や床、クロスの塗装、張替え
- 経年劣化や損耗箇所の修復、クリーニング
- 廃棄物の処理
これらの工事を怠ると、賃貸契約の終了時にトラブルになるため、事前に詳細な計画を立て、適切な業者への依頼が欠かせません。

飲食店における原状回復工事の種類

次は、飲食店における原状回復工事の種類について解説します。
- スケルトン工事
- 居抜き
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.スケルトン工事
「スケルトン渡し」や「スケルトン戻し」、「スケルトン返し」などと呼ばれる状態は、店舗内がコンクリートむき出しのままで、内装が一切ない状態です。飲食店の場合、契約後に設置した厨房設備や排気ダクトなどをすべて撤去し、元の空っぽの状態に戻すのがスケルトン工事です。
多くの場合、「原状回復工事」と「スケルトン工事」は混同されがちですが、「スケルトン工事」は「原状回復工事」の一環として位置づけられます。たとえば、オフィスビルやショッピングモールで新たに店舗を開業する際には、スケルトン工事が必要となるケースが多い傾向です。
なお、スケルトン解体については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:【プロが教える】スケルトン解体とは?メリットや費用相場、安く抑えるコツを徹底解説!
2.居抜き
居抜きとは、現在の内装や設備をそのまま残し、後継テナントに引き継ぐ方法です。居抜き物件として退去できる場合、原状回復は必要ありません。
しかし、居抜きで入居した後に退去する際には、原状回復義務により「スケルトン渡し」を求められる場合があります。たとえば、後継テナントが見つからなかった場合や、貸主側が居抜きでの退去を認めなかったなどのケースが考えられます。
このような場合、入居者は契約時点の状態に戻すために、原状回復工事をしなければなりません。具体的には、内装や設備の撤去、床や天井の修復、配管や電気設備の撤去などが含まれます。

飲食店における原状回復工事の費用相場

原状回復工事の費用は、飲食店舗の坪数や物件の状態によって異なります。原状回復工事の費用は、坪数によって決まるのが一般的です。
たとえば、10〜20坪の店舗であれば、費用の目安は19,000円〜、30〜40坪の店舗では23,000円〜が相場となります。また、内装の状態や設備の撤去、水回りの工事の必要性の有無も総費用に影響します。
そのため、具体的な費用を把握するためには、専門業者に見積もりを依頼し、詳細な内訳を確認するのが確実です。

飲食店の原状回復費用を削減するポイントは3つ

次は、飲食店の原状回復費用を削減するポイントについて解説します。
- 居抜きでの退去を貸主側と交渉する
- 見積書の妥当性をチェックする
- 工事範囲を明確にする
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.居抜きでの退去を貸主側と交渉する
「居抜き退去」とは、現状のインフラ設備や家具、什器、内装などを残したまま退去する方法です。物件オーナーの許可が必要ですが、許可が得られたら、大掛かりな原状回復工事が不要となり、閉店コストを大幅に削減できます。
また、次のテナントが同じ設備を使って入居するため、貸主も賃料収入を途切れさせずに継続できます。そのため、借主側も後継テナントを見つけやすくするために、不動産会社や知り合いに事前に声かけや相談しておくことが大切です。
しかし、後継テナントを探すためには時間がかかるため、早めの準備が求められます。
2.見積書の妥当性をチェックする
設計図面にもとづく数量と、見積書の数量が一致しているか注意深く確認するようにしてください。もし、図面と見積書の数量が異なる場合は、過剰請求になっているおそれがあります。
また、契約時に設置された設備を元の状態に戻す際には、その設備が同等の品質や性能を有しているか確認しなければなりません。これにより、余計な費用やトラブルを避けられます。
3.工事範囲を明確にする
賃貸借契約書には原状回復の概要が記載されていますが、具体的な工事項目については触れられていない場合が多いです。そのため、工事前に現場を確認し、貸主と借主が工事の対象範囲をひとつずつ確認し合う必要があります。
範囲が曖昧なままだと、工事が進行するなかで予期せぬ追加工事が発生しやすくなります。また、工事内容が明確でないと、工事会社はリスクを見込んで見積額を高く設定する可能性が高いです。

原状回復工事のトラブルを避けるポイントは3つ

次は、原状回復工事のトラブルを避けるポイントについて解説します。
- 原状回復の特約に注意する
- 貸主に指定業者の有無を確認する
- 原状回復工事に要する期間を確認する
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.原状回復の特約に注意する
賃貸借契約を結ぶ際、特約が不利な内容である場合は、事前に質問や交渉するべきです。飲食店などの商業物件では、タバコのヤニやクーラーの水漏れ、カビなどがトラブルの原因になりやすいです。
借りたときの状態を正確に記録し、退去時に不当な請求を受けないように注意しましょう。また、契約時には壁紙やペンキの状態を詳細に確認し、後でトラブルにならないように、大家さんとの事前打ち合わせが欠かせません。
2.貸主に指定業者の有無を確認する
賃貸物件の退去時に必要な原状回復工事に関しては、多くの場合、貸主が工事業者を指定しますが、必ずしも従う必要はありません。このため、交渉次第では、貸主が指定する業者以外を利用する許可が得られる場合もあります。
事前に貸主に確認し、指定業者以外の選択肢がある場合は、複数の業者から見積もりを取得しましょう。これにより、コストを比較し、より安価で経験豊富な業者を選定できます。
3.原状回復工事に要する期間を確認する
契約解除の通知期間は、物件により3か月~6か月と異なるため、事前に契約書の確認が欠かせません。原状回復工事の期間は、店舗の規模や事業形態によって異なり、小規模な店舗では約1週間、中規模以上の店舗ではそれ以上の時間が必要になります。
また、工事が退去日までに完了しない場合、契約の延長と追加の賃料支払いが発生する可能性があるため、詳細なスケジュールの確認と調整が不可欠です。
事前に業者と打ち合わせを実施して、円滑に工事を進めるための計画を立てておきましょう。

現代復帰(原状回復)でよくある3つの質問
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最後に、現代復帰(原状回復)でよくある質問について紹介します。
- 質問1.原状回復工事はどこに依頼すればいい?
- 質問2.飲食店で原状回復工事をしなくてよいケースは?
- 質問3.原状回復工事にかかる期間はどのくらい?
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
質問1.原状回復工事はどこに依頼すればいい?
建設会社や工務店に依頼すると、対応してもらえる場合がありますが、下請け業者に外注する場合が多く、費用が高くなる可能性があります。一方で、専門の工事業者や職人に依頼すると、費用が抑えられる傾向がありますが、工事内容ごとに発注する必要があり、現場管理の手間が増えます。
このため、原状回復工事専門の業者に依頼するのが効率的でおすすめです。これにより、コストと管理のバランスが取れた結果を期待できます。
質問2.飲食店で原状回復工事をしなくてよいケースは?
一般的に、飲食店を閉店する際の原状回復工事は借主の義務です。ただし、以下の場合には、原状回復工事が免除される可能性があります。
- 貸主が定めた条件に合致している場合
たとえば、賃借期間が著しく短い、居抜き状態で賃借した場合などが挙げられる。このような条件に合致する場合、完全に元の状態に戻すのではなく、一部の原状回復で済む場合がある
- 貸主が「居抜き売却(造作譲渡)」を了承している場合
設備や内装を次の借主に買い取ってもらう「居抜き売却(造作譲渡)」を貸主が了承すれば、物件の原状回復は不要となる。また、譲渡完了の期限を守るため、早急に譲渡先を見つける必要がある
質問3.原状回復工事にかかる期間はどのくらい?
原状回復工事の期間は、工事の規模や内容によって異なります。たとえば、小規模で簡単な工事であれば、一般的に1週間程度で完了します。
また、100坪以内の一般的な工事の場合、2週間〜1か月程度を見込みましょう。さらに、100坪を超える大規模な工事や、設備が多い場合は1か月以上の期間が必要です。そのため、現地調査を早めに実施し、具体的な期間を把握してから依頼すると、スムーズな進行が期待できます。

まとめ

本記事では、「現状復帰」と「原状回復」の違いや原状回復の種類、必要なケース、費用を削減するポイントをご紹介しました。
原状回復は、賃貸住宅やオフィスを退去する際に、借りた当初の状態に戻すという意味です。一方、現状復帰は現在の状態へ戻すことを指し、地震などの災害で建物や住宅設備が損傷を受けた際に使用するのが一般的です。
なお、「現状回復」という言葉を見かけますが、「原状回復」が正しいため、使用方法に注意しましょう。これらの用語の違いを正しく理解し、適切な対応を心がけてください。

