
店舗の売却を検討している方で、進め方がわからない方もおられるのではないでしょうか。店舗を売却するためには、仲介業者の選定や契約などのさまざまなステップが必要です。
本記事では、店舗売却の流れや売却の注意点、主な費用の種類について解説します。また、よくある質問についても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

店舗売却の一般的な方法は?

店舗を売却する際は、「居抜き」での売却が一般的です。居抜きとは、飲食店や美容室などの什器や備品を設置したまま売買する行為を指します。
購入者は同じ業種を営む場合、初期投資を大幅に抑えられる点がメリットです。一方、売却者にとっては、解体や撤去の費用が不要となるため、より多くの収益を手元に残せます。
店舗売却時の注意点

次は、店舗売却時の注意点について解説します。
- リース物品
- 備品の不具合
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.リース物品
店舗売却時にリース物品の取り扱いには注意が必要です。リース物品は売却対象店舗の所有物ではなく、リース会社が所有しているため、それらを店舗と一緒に売却することはできません。
売却する前には、すべてのリース契約を確認し、契約の状態によってはリース会社との交渉が必要になる場合もあります。
たとえば、リース契約を新オーナーに引き継ぐ、あるいはリース契約を終了する手続きが必要になります。不透明な取り扱いは法的な問題を引き起こす可能性があるため、専門家の助言を求めるようにしましょう。
2.備品の不具合
備品は中古の状態で引き渡すため、購入者が開店する際に不具合が起こらないように、引き渡し前の動作確認が欠かせません。これまでの使用中に不具合を感じた場合は、その状況を伝えて将来のトラブルを防ぐようにしましょう。
また、事前に説明した備品の種類や数量が実際と異なる場合、売買金額の減額で調整されるケースもあるため注意が必要です。備品に問題がある旨を伝えずに物件を引き渡すと、開店ができなくなり、損害賠償請求や契約解除のリスクもあります。
なお、厨房機器の耐用年数については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:厨房機器の耐用年数とは?減価償却の方法や買い替えるべきタイミングも解説します!

店舗売却の流れは5ステップ

次は、店舗売却の流れについて解説します。
- ステップ1.仲介業者のヒアリング
- ステップ2.現地調査および査定
- ステップ3.販売活動
- ステップ4.造作譲渡契約を締結
- ステップ5.店舗の引き渡し
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
ステップ1.仲介業者のヒアリング
店舗の売主は、居抜き売却の経験がある不動産業者に、自店舗の業種や特性を伝えます。このヒアリングでは、店舗の住所や希望の売却価格、リース契約の詳細、物件の不具合の有無など、物件の査定や募集条件に影響するさまざまな情報を提供する必要があります。
不動産会社との連携は、店舗の魅力を最大限に引き出し、適切な買い手を見つけるために不可欠です。
ステップ2.現地調査および査定
不動産業者が実際に現地を訪れ、立地や店舗の大きさ、形を含む詳細を確認し、売却に関する打ち合わせをします。物件の特徴や売主しか知らない情報は、査定額に影響があるため、積極的に伝えましょう。
また、業者に査定を依頼する前に、自分で相場を調査すると、スムーズに進められます。買主の候補が見つかった場合は、閉店後など営業に支障がない時間帯に不動産会社の担当者を交えて内装や設備の内見・現地調査が行われます。
内見が少ない居抜き物件でも、よい印象を与えられるよう掃除や換気しておきましょう。また、内見時は買主候補が売主に対して売却理由などを質問する可能性があるため、不動産会社との事前の打ち合わせが大切です。
ステップ3.販売活動
仲介業者による査定が終わり、媒介契約を締結すると、業者は店舗の販売活動を開始します。媒介契約には、以下の2種類があります。
- 一般媒介契約
一度に複数の不動産会社と契約できる
- 専任・専属専任媒介契約
1社のみしか契約できない
たとえば、豊富な売却実績がある業者を選ぶと、専任契約が積極的な販売活動を促します。しかし、一般媒介契約を選べば、複数の不動産会社を通じて広く販売情報の発信が可能です。
売却が開始されると、業者はWebサイトやチラシなどを通じて買主を探し、販売活動を担います。自己売却の場合は、広告の費用と管理が売主の負担となります。
ステップ4.造作譲渡契約を締結
造作譲渡契約は、店舗の備品や什器の所有権が売主から買主へ移るため、事前の準備として譲渡するアイテムのリストを正確に作成し、双方が合意する内容を明確にしなければなりません。契約書の作成は不動産仲介業者が対応しますが、売主自身も内容を確認し、必要な修正はしておきましょう。
契約は、貸主と借主(売主)、買主の3者間で契約します。まず、貸主から許可をもらい、その後借主(売主)と買主で造作譲渡契約を結ぶ流れです。
また、造作譲渡契約は賃貸物件の場合、物件のオーナーとの間でも調整が必要です。具体的には、新たな借主との賃貸借契約とあわせて、既存の賃貸借契約の解約や保証金の返金処理が含まれます。
ステップ5.店舗の引き渡し
引き渡し書類への署名や押印、引き渡し金の支払い、店舗の状態が契約時と同様である点が確認された場合に引き渡しが行われます。居抜き売却の場合は、後々のトラブルを避けるために店舗の掃除も実施しましょう。
最後に、残金の精算後に売主から買主に店舗の鍵が引き渡され、売却の手続きは終了です。

店舗売却にかかる主な費用は3種類

次は、店舗売却にかかる主な費用について解説します。
- 仲介手数料
- 譲渡所得税
- 印紙税
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.仲介手数料
不動産売買においては、居抜き売買でも仲介手数料が発生します。ただし、居抜きの場合は造作譲渡の仲介が宅地建物取引業法の対象外であり、仲介手数料の上限額が定められていません。
一般的な目安は、30万円または譲渡代金の10%ですが、過剰な金額が請求される場合もあるため、注意が必要です。そのため、不動産会社を選定する際には、手数料の透明性と妥当性を確認し、適切な取引ができるように注意しましょう。
2.譲渡所得税
店舗売却に伴う譲渡所得税は、得られた利益に応じて課税されます。この税金は、土地や建物の売却利益と、備品や什器の売却利益で以下のとおりに、異なる扱いを受けます。
- 土地や建物の売却利益
分離課税の対象となり、所有期間が5年以下の場合は39.63%、5年を超える場合は20.315%の税率が適用される
- 備品や什器の売却利益
総合課税の対象で、他の所得と合算され累進課税が適用される
物件の所有者と運営者が同一の場合は、両方の利益に対して税金の計算が必要です。一方、所有者と運営者が異なり、備品や什器のみが譲渡される場合は、総合課税のみが適用されます。
3.印紙税
店舗売却時には、買主との契約書に必要な印紙を貼り、印紙税を納めなければなりません。この税額は売却金額に応じて異なり、適切な額の印紙を契約書に貼り付けなければ、過怠税が課されるリスクがあります。
そのため、契約締結後はすみやかに正しい額の印紙を購入し、契約書への貼付が重要です。この手続きを怠ると、追加で費用が発生するだけでなく、契約の正式性にも影響が出る場合があります。

店舗売却でよくある3つの質問

最後に、店舗売却でよくある質問について紹介します。
- 質問1.スケルトン物件とは?
- 質問2.居抜きで売却する場合のポイントは?
- 質問3.飲食店における居抜き売却の相場はいくら?
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
質問1.スケルトン物件とは?
スケルトン物件とは、内装や設備をすべて撤去して骨組みだけの状態に戻した物件です。この状態にするための解体コストは、物件の状態や立地、業態によって大きく変わり、1坪あたり約1万5千円〜4万円が相場となります。
スケルトン化した物件は、居抜き物件と比較して売価が低めに設定される傾向があり、新たな買主や借主には自由に空間をデザインできるのがメリットです。しかし、居抜き物件と比較すると、スケルトン物件から新しく店舗を作り上げるコストは高くなる可能性があります。
それでも、スケルトン物件は立地や物件のサイズが一致する限り、業種問わず幅広い可能性を持つため、好立地であれば購入希望者にとって魅力的な選択肢です。
なお、スケルトン渡しについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:【プロが教える】スケルトン渡しとは?居抜きとの違いや費用相場、トラブルを防ぐ注意点を徹底解説!
質問2.居抜きで売却する場合のポイントは?
居抜きで売却する場合の重要なポイントは、以下のとおりです。
- 貸主の承諾を得る
賃貸借契約では「原状回復」が求められるため、居抜きでの引き渡しには貸主の明確な承諾が必要となる。貸主によっては居抜きの条件を許可する場合もあるため、専門業者と協力し、交渉を丁寧に進めるのが望ましい
- 価格交渉を慎重に行う
居抜き物件の売却価格は、専門業者の査定で決まるのではなく、売主と買い取り希望者との間で価格交渉して決まる。物件の立地がよい場合、競争が激しくなり、売主にとって有利な交渉が可能となる。また、エアコンやダクトなど厨房の環境が重視されるため、価格に大きく影響する
質問3.飲食店における居抜き売却の相場はいくら?
一般的に、東京都内で20坪程度の飲食店では、50万円~150万円が相場です。しかし、この価格は店舗の立地や状態、設備の充実度によって大きく変動する可能性があります。
人気エリアの路面店や駅近の店舗では、価格がさらに高くなるケースが期待できます。また、店内の清潔さや設備の状態が良好であれば、価格が上昇するのが一般的です。

まとめ

本記事では、店舗売却の流れや売却の注意点、主な費用の種類について解説しました。
店舗を売却する際には、「居抜き」での売却が一般的で、リース品や備品の不具合がないか確認して、売却の手続きを進めましょう。また、媒介契約には2種類あり、1社のみしか契約できない「専任契約」は、豊富な売却実績がある業者を選ぶと積極的な販売活動を促します。
さらに、一般媒介契約を選ぶと、複数の不動産会社を通じて広く販売情報の発信が可能です。売却時には、仲介手数料や譲渡所得税、印紙税が関わってくるため、これらも理解しておいてください。

