
飲食店の経営を検討している方で活用できる助成金や補助金を知りたいという方もおられるのではないでしょうか。助成金と補助金は、国や地方公共団体が事業者に対して提供する経済的支援ですが、それぞれの目的は異なります。
本記事では、飲食店で活用できる助成金や補助金、活用する際の注意点をご紹介します。また、よくある質問も紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

助成金・補助金とは?

助成金と補助金は、国や地方公共団体が事業者に対して提供する経済的支援です。助成金は、労働環境の改善や雇用の安定、新規採用、人材育成などが目的です。
一方、補助金は事業の拡大や新規事業の立ち上げ、設備投資といった事業活動を支援するために用いられ、製品開発や市場拡大のための資金も含まれます。助成金と補助金の適用を受けるためには、それぞれの要件を満たす必要があり、適切な申請手続きが必要です。

飲食店で活用できる助成金一覧

次は、飲食店で活用できる助成金について解説します。
- 業務改善助成金
- 雇用調整助成金
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.業務改善助成金
業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者が従業員の賃金を引き上げながら業務改善する取り組みに対して、その経費を支援する制度です。この制度には、「30円コース」「45円コース」「60円コース」「90円コース」があり、引き上げた事業場内最低賃金額によって助成上限額が異なります。
また、賃金要件や生産量要件、物価高騰など要件に特例が設けられており、いずれかに該当する事業者は助成上限額や助成対象経費が拡大します。
対象者 | 中小企業、小規模事業者※従業員を雇用している事業者(雇用者がゼロの場合は対象外) |
対象経費 | 設備投資、経営コンサルティング、専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上 など |
補助金額 | 30万円〜600万円 |
補助割合 | 事業場内最低賃金が・900円未満:9/10・900円以上950円未満:4/5(9/10)・950円以上:3/4(4/5) |
管轄 | 各都道府県労働局雇用環境・均等部室 |
2.雇用調整助成金
雇用調整助成金とは、経済的理由で事業活動を縮小した事業者が、雇用を維持するために休業や研修、出向にかかる費用を支援する制度です。この助成金は、負担の大きい人件費や研修費の補助により、事業者が経営を継続しやすくするための支援が目的です。
支給申請期間は、判定基礎期間終了後の2か月以内とされています。また、2023年3月まではコロナ特例が設けられていましたが、現在は通常の運用となっています。
対象者 | ・雇用保険の適用事業主・3か月間の平均売上が前年同期に比べて10%以上減少している事業主 など |
対象経費 | 従業員の給与、教育訓練費、出向費 |
補助金額 | 上限額8.490円 / 1日・1人教育訓練を実施した場合、1,200円加算 |
補助割合 | ・中小企業:2/3・大企業:1/2 |
管轄 | 厚生労働省 |

飲食店で活用できる補助金一覧

次は、飲食店で活用できる補助金について解説します。
- 小規模事業者持続化補助金
- 事業再構築補助金
- IT導入補助金
- ものづくり補助金
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、中小企業や個人事業主を対象に、事業の再構築や新たな販路拡大のための施策にかかる経費をサポートする補助金です。
補助金の申請においては、枠ごとによって補助される金額も異なるため、どの枠で申請するのが適切かの見極めが必要になります。
対象者 | 20人以下の従業員を雇用している事業者 |
対象経費 | ・機械装置費・広報費・ウェブサイト関連費・展示会など出展費(オンラインによる展示会、商談会などを含む)・旅費・開発費・資料購入費・雑役務費・借料・設備処分費・委託、外注費など |
補助金額 | ・通常枠:50万円・賃金引上げ枠、卒業枠、後継者支援枠、創業枠:200万円※インボイス特例適用事業者は50万円上乗せ |
補助割合 | 2/3※賃金引上げ枠のうち、赤字事業者は3/4 |
管轄 | 各地の商工会議所 |
2.事業再構築補助金
事業再構築補助金は、コロナ禍を経て経済社会が変化するなか、新分野展開や業種・業態・事業転換、事業再編などに取り組む中小企業や個人事業主を支援する制度です。
申請には、「認定経営革新など支援機関による事業計画の確認」や「付加価値額の向上(申請枠ごとに異なる)」などの要件を満たす必要があります。
さらに、事業計画は指定の支援機関や金融機関などの第3者機関とともに策定しなければなりません。また、公募では以下の枠が用意されており、それぞれ補助上限金額や補助率は異なります。
- 「成長枠」
- 「グリーン成長枠」
- 「卒業促進枠」
- 「大規模賃金引上げ促進枠」
- 「産業構造転換枠」
- 「物価高騰対策・回復再生応援枠」
- 「最低賃金枠」
対象者 | 1人〜規定なし(各枠で求められる要件を満たした事業者) |
対象経費 | ・建物費・機械装置、システム構築費・技術導入費・専門家経費・運搬費・クラウドサービス利用費・外注費・知的財産権等関連経費・広告宣伝、販売促進費・研修費など |
補助金額 | 100万円~1.5億円※申請枠や従業員数などによって異なる |
補助割合 | 1/2~3/4※申請枠や企業規模などによって異なる |
管轄 | 中小企業庁 |
3.IT導入補助金
IT導入補助金は、飲食店を含む中小企業や小規模事業者の経営上における課題をデジタル化によって解決し、業務の効率化をはかるのが目的です。
具体的には、キャッシュレス決済システムの導入やオンラインの予約受付システム構築、デジタルマーケティングツールの利用などが挙げられます。
対象者 | ・中小企業・小規模事業者 |
対象経費 | ・ソフトウェア購入費・クラウド利用費・導入関連費・セキュリティサービス利用料 など |
補助金額 | 5万円~450万円※申請する枠や類型などによって異なる |
補助割合 | 1/2~3/4※申請する枠や類型などによって異なる |
管轄 | 独立行政法人中小企業基盤整備機構 |
4.ものづくり補助金
ものづくり補助金は、飲食店を含む中小企業や小規模事業者のサービス革新や生産性向上、新たな事業拡張する際の負担を軽減できます。
申請する際には、事業者が3〜5年の具体的な事業計画を策定し、提出しなければなりません。この補助金は、事業のスケールアップを図る中小企業にとって大きな一助になる制度です。
対象者 | ・中小企業(従業員数900人以下)・小規模事業者 |
対象経費 | ・キャッシュレス決済や予約管理システムなどのデジタルツール導入・海外事業進出やインバウンド対策のための設備費用 など |
補助金額 | 750万円~1億円※申請する枠や類型などによって異なる |
補助割合 | 1/2~3/2※申請する枠や類型などによって異なる |
管轄 | 全国中小企業団体中央会 |

助成金・補助金を活用した飲食店の施策事例3選

次は、助成金・補助金を活用した飲食店の施策事例について紹介します。
- セルフオーダーシステムの導入
- 調理器具や洗浄機の導入
- 予約・問い合せ対応の自動化
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.セルフオーダーシステムの導入
セルフオーダーシステムは、顧客がタブレットやスマートフォンを使用して注文できる仕組みで、待ち時間が短縮されるだけでなく、注文ミスの削減が期待できます。これにより、スタッフは接客やほかの業務に集中できます。
さらに、セルフオーダーシステムから得られるデータを利用して、効率的な消費傾向の分析や在庫管理も可能です。たとえば、売れ筋商品の分析により、必要な食材の量を正確に把握し、無駄な在庫を削減できるため、コストの削減につながります。
2.調理器具や洗浄機の導入
調理器具や洗浄機の導入は、調理や清掃の作業時間が大幅に削減され、スタッフは顧客サービスに集中できます。新しい技術を取り入れた機器は、従来のものに比べてエネルギー効率が良好であり、運用コストの削減や維持管理の手間も減少するのがメリットです。
さらに、高性能な洗浄機を導入すると、厨房内の衛生状態が向上し、食品安全に対する信頼性が高まります。また、最新の調理器具を用いれば、食材の無駄を削減し、限られた人員でも一貫した品質の料理を提供できます。
3.予約・問い合せ対応の自動化
自動化ツールの導入により、電話での予約受付や顧客からの問い合わせ対応が大幅に軽減され、スタッフは厨房業務や顧客サービスに集中できます。これにより、顧客の待ち時間の短縮とサービス品質の向上につながります。
また、予約管理システムを導入すると、予約が24時間受け付けられるようになり、顧客は自分の都合のよい時間帯に予約が可能です。さらに、AIを利用したチャットボットを活用すれば、よくある問い合わせに対して回答が提供できるため、顧客満足度が向上します。

助成金・補助金を活用する際の3つの注意点

次は、助成金・補助金を活用する際の注意点について解説します。
- 支出期間や申請期限、報告書の提出などがある
- 補助金は必ず給付してもらえるわけでない
- 補助金・助成金は後払いで支給される
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
1.支出期間や申請期限、報告書の提出などがある
助成金や補助金は、特定の事業期間内に発生した費用のみが対象となるため、期間外の支出は補助の対象外です。この点を見落とすと、計画していた事業が支援対象外となる可能性があります。
また、多くの助成金や補助金では、申請が認められた後に実施期間内の支出を証明する報告書の提出が求められます。報告書は、具体的な支出明細や活動の成果が含まれている必要があり、適切に記録を残しておかなければなりません。
たとえば、小規模事業者持続化補助金の場合、事業完了後に実績報告書を提出し、その後も定期的な状況報告が必要です。
2.補助金は必ず給付してもらえるわけでない
助成金は要件を満たせば受給できる場合がほとんどですが、補助金は審査で採択された場合のみ受給可能なため、申請しても必ず受給できるわけではありません。採択されるためには、申請書の内容や添付書類の充実度が非常に重要です。
申請書には具体的な計画や予算の詳細を明確に記載し、提出期限を必ず守りましょう。また、過去の実績や事業の必要性をアピールするのも有効です。
3.補助金・助成金は後払いで支給される
補助金や助成金は、基本的に事業の実施後に後払いで支給されます。そのため、申請が通り支給が決定しても、事業を実施するためには自己資金が必要となるため、余裕を持った資金計画が不可欠です。
さらに、事業完了後に正確な報告書や証拠書類の提出が求められるため、事前の準備も欠かせません。事前に資金繰りをしっかりと整え、スムーズに事業を進めるのが成功のポイントです。

飲食店の助成金でよくある3つの質問

次は、飲食店の助成金でよくある質問について紹介します。
- 質問1.飲食店がものづくり補助金に採択されるためのポイントは?
- 質問2.飲食店が補助金を活用するメリット・デメリットは?
- 質問3.補助金や助成金に税金はかかるの?
それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。
質問1.飲食店がものづくり補助金に採択されるためのポイントは?
飲食店が採択されやすくなるためのポイントは、以下のとおりです。
- 新商品または新たな生産プロセスを確立する
独自の調理ノウハウや強みを活かし、地元の生産者や企業とコラボレーションして新商品を開発するのが有効。また、厨房レイアウトの見直しや新しい設備導入により、生産プロセスを効率化するのもポイントになる
- 新たな生産プロセスの成果を定量的に示す
「厨房機器の導入により製造時間を1時間短縮」「生産量が20%アップし販路拡大に成功」など、具体的な数値を用いて説明する。これにより、事業の継続可能性や費用対効果の高さを示せる
- 新商品の開発における根拠ある売上計画を立案する
商品の開発理由、開発の経緯やマーケット調査の結果、ペルソナ設定など具体的なデータを用いて売上計画を立案する。明確な根拠に基づいた計画を示せれば、補助金の採択率を高められる
質問2.飲食店が補助金を活用するメリット・デメリットは?
飲食店が補助金を活用するメリットとデメリットは、以下の点があげられます。
メリット
- 原則的に返済不要で開業費用を抑えられる
- 融資ではないため経営方針を自分で決められる
- 事業計画の精度が高まり社会的信用を得やすい
デメリット
- 補助金を申請しても、必ずしも採択される保証はない
- 基本的に後払いとなるため、自己資金が必要
- 事業計画や申請書の作成には時間と費用がかかる
質問3.補助金や助成金に税金はかかるの?
補助金や助成金は、確定申告の際に収入としての申告が必要です。補助金や助成金は経理上「雑収入」「雑所得」などの科目で「収入」として計上する必要があるため、税金が発生します。
たとえば、飲食店が400万円の補助金を受け取った場合、この金額が課税対象です。所得税や住民税、事業税、国民健康保険料にも影響が出るため、注意してください。
ただし、利益が大幅に赤字の場合、補助金を受け取っても課税されないケースがあります。具体的には、飲食店の利益がマイナス500万円で、補助金が400万円の場合、税金は課されません。
さらに、30万円以上の高額設備や看板などを購入した場合、課税対象となります。購入時に減価償却費として経費計上する必要がありますが、30万円未満の設備については非課税です。

まとめ

本記事では、飲食店で活用できる助成金や補助金、活用する際の注意点をご紹介しました。
助成金は、労働環境の改善や雇用の安定、新規採用、人材育成などが目的です。飲食店で使える助成金には、「業務改善助成金」や「雇用調整助成金」があります。
また、補助金は事業の拡大や新規事業の立ち上げ、設備投資といった事業活動の支援や製品開発、市場拡大のための資金が目的です。飲食店では、「小規模事業者持続化補助金」や「事業再構築補助金」「IT導入補助金」「ものづくり補助金」があります。
申請する目的や枠などによって、補助金額や割合、必要書類などが変わるため、それぞれの公式サイトを確認してみてください。

