店舗やオフィスの契約時、または退去時に「スケルトン渡し」という言葉を耳にします。賃貸物件の状態を指しますが、どういう意味なのか詳しく知らない人も多いでしょう。
この記事では、スケルトン渡しの概要や居抜きとの違い、費用相場を紹介します。トラブルを防ぐ注意点も挙げているので、ぜひ参考にしてみてください。
スケルトン渡しとは?
スケルトン渡しとは、賃貸物件を内装が一切施されていない状態、つまり「スケルトン状態」で引き渡すことを指します。具体的には、天井や壁はコンクリートむき出し、床はフローリングやクロスがない状態です。
スケルトン物件は、新しいテナントにとってカスタマイズの自由度が高く、必要に応じて自由に設備や内装を構築することが可能です。
これに対して、契約終了時に元のスケルトン状態に戻して返すことを「スケルトン返し」または「スケルトン戻し」と言います。また、物件をスケルトン状態にする工事を「スケルトン工事」と呼びます。
居抜きとの違い
スケルトン渡しとは反対に、「居抜き」という言葉があります。居抜き物件とは、前の借主の設備がそのまま残されている状態を指します。
初見では、設備をそのまま利用できるため、次に借りる側にとって便利で経済的に見えるかもしれません。しかし、実際は内装譲渡金が必要となる場合があります。この金額は、前の借主が設置した内装や設備を引き継ぐために支払うものです。
また、引き継いだ設備に不具合があった場合、修理費が別途発生するリスクもあります。居抜き物件は便利さと同時に、さまざまなトラブルの可能性を含むため、契約前に慎重な検討が求められます。
原状回復との違い
「原状回復」とは、賃貸物件を使用前の状態に戻す義務を指し、改正民法621条により借主の義務として規定されています。この原状回復の義務は、賃貸契約書にも詳細が記載されています。
住居用物件の場合、経年による自然劣化や摩耗に対する原状回復は通常、借主の義務ではありません。しかし、飲食店などの事業用物件を使用していた場合、経年劣化を含む広範な原状回復が借主の負担とされることが一般的です。このような場合、契約にはしばしば「特約付き原状回復」として詳細な条件が定められます。
なお、「スケルトン渡し」は原状回復の一形態です。これは、物件をスケルトン状態で受け取った場合、同じスケルトン状態で返却することを意味します。契約開始時にスケルトン状態でなかった場合でも、契約終了時にスケルトン状態での返却を求められることがあるため、契約内容の確認が重要です。
スケルトン渡しにかかる費用相場
スケルトン渡しに伴う工事費用は、建物の状態、工事の規模、期間により大きく異なります。費用の見積もりを正確に行うのは困難であるため、複数の業者から見積もりを取得して市場の相場を把握するのがおすすめです。
一般的に、スケルトン工事の費用は坪単価で計算されることが多く、目安としては一坪あたり3万円から5万円程度が相場とされています。この単価は、物件の広さに応じて総額が変動するため、物件の床面積が広ければ広いほど、全体の工事費も高額になる傾向があります。
スケルトン渡しによる2つのメリット
スケルトン渡しは、居抜き物件にはないメリットが得られます。主に次の2つです。
- レイアウトが自由に変更できる
- 居抜きより費用が抑えられる場合がある
それぞれの内容について詳しくみていきましょう。
1.レイアウトが自由に変更できる
スケルトン渡しの物件は、以前の借り主の影響を受けることなく、新しい借り手が店内の設計を一から自由に行えます。既存の内装に縛られることなく、完全にオリジナルのレイアウトを計画できるため、ブランドのイメージに合った最適な空間を創出することが可能です。
特に大手飲食チェーンなどでは、各店共通の設計が多いため、以前の借り主が同じ業態でもスケルトンを希望することがあります。
2.居抜きより費用が抑えられる場合がある
居抜き物件の設備が古い、または特定の業種に特化しているなど、必要な修繕やカスタマイズの費用が想像以上に高額になることがあります。これに対し、スケルトン渡しは、解体工事の見積もりが出しやすく、場合によっては費用を抑えることが可能です。
新しい借り手が完全にカスタマイズ可能な状態から始められるため、無駄な出費を避け、最終的にコスト削減につながるケースも少なくありません。
スケルトン渡しによる2つのデメリット
スケルトン渡しによるメリットを紹介しましたが、一方でデメリットも存在します。主に次の2つが挙げられます。
- 工期に時間がかかる
- 初期費用が大きくなりやすい
項目ごとに詳しくみていきましょう。
1.工期に時間がかかる
スケルトン渡しは、建物を基本構造のみに戻すため、新しい借り手は店舗として機能させるためのすべての設備を一から準備する必要があります。これに対し、居抜き物件では既存のインフラを利用できるため、開業準備が迅速に進むことが多いです。
スケルトン渡しを選択した場合、新しい設備の導入や内装工事など、開業までの工期が長くなることを予め考慮した上で計画を立てましょう。
2.初期費用が大きくなりやすい
スケルトン渡しは、借り手が物件を使用可能な状態にするために、内装からインフラ設備まですべてを新たに設計し整備する必要があります。そのため、電気、ガスといった基本的なインフラの整備にも初期投資が必要です。
居抜き物件と比較すると、スケルトン渡しはより広範囲の工事が必要になるため、初期費用が増大することが一般的です。このような高額な初期投資が必要になる点を事前に理解し、予算計画を慎重に立てることが重要です。
スケルトン渡しをする際の注意点は4つ
ここでは、スケルトン渡しをする際の注意点を紹介します。主に次の4つです。
- 貸契約書の内容を確認する
- 貸主としっかりコミュニケーションをとる
- 追加費用が生じる可能性も考えておく
- ゆとりのあるスケジュールを組む
それぞれの内容について詳しくみていきましょう。
1.賃貸契約書の内容を確認する
賃貸契約を結ぶ際は、契約書の詳細をしっかり確認することが重要です。特に、原状回復の義務の範囲や条件を理解し、誰がどの程度の責任を負うのか把握する必要があります。
また、必要となる工事の実施者が借主か貸主のどちらになるのか、そして共有設備や標準設備のメンテナンスに関する費用負担は貸主が担うのかを確認することも大切です。解体作業を行う業者の選定が、貸主によって指定されている場合もありますので、この点も契約書で確認してください。
さらに、「特約事項」として契約書に記載されている条件や例外もしっかりとチェックし、不明な点は事前に解消しておくべきです。これにより、将来的なトラブルを避けることができます。
2.貸主としっかりコミュニケーションをとる
スケルトン渡しにおいては、原状回復工事が長期にわたる場合が多いため、退去予定の最低でも3ヶ月前から準備を始めることをおすすめします。早期に貸主や管理会社とコミュニケーションを取り、定期的に話し合いの場を設けることが、将来的なトラブルを避けるコツです。
話し合いを通じて契約内容や設計図面を共に確認することで、双方に不明点が明らかになり、契約書に書かれていない詳細や解釈の違いを事前に解消できます。また、貸主には、可能な限り工事に立ち会ってもらうと安心です。
3.追加費用が生じる可能性も考えておく
スケルトン工事には、予期せぬ追加費用が発生することがあります。初期の見積もり段階で計画された内容と異なる問題が工事中に発見されることが一因です。
たとえば、特殊な工具を必要とする設備の撤去などがそれにあたり、これらの作業は予想以上に高額になる可能性があります。したがって、工事費用には余裕を持たせることが重要です。
スムーズに進行させるためにも、予算計画は慎重に行い、緊急時に備えた資金の確保も忘れないようにしましょう。
4.ゆとりのあるスケジュールを組む
スケルトン工事は、重機や工具を使用し、作業時間に制限がある場合も多いため、閉店の日程が決まったら、直ちに工事の計画を立てましょう。準備が遅れると、引き渡し日に間に合わず、追加の賃貸料や違約金が発生するリスクが高まります。
余裕を持ったスケジュールの下、早期に工事に着手し、予期せぬ遅延にも対応できるよう計画を立てることが大切です。
スケルトン渡しとはでよくある3つの質問
最後に、スケルトン渡しでよくある質問にお答えします。
- 質問1.必ずスケルトン渡しをしなければならない?
- 質問2.スケルトン渡しにかかる費用を抑えるコツは?
- 質問3.スケルトン渡しよりも居抜きの方がお得?
それぞれ詳しくみていきましょう。
質問1.必ずスケルトン渡しをしなければならない?
退去時の「原状回復」義務は賃貸物件において一般的ですが、「スケルトン渡し」が必須であるかどうかは、契約内容によります。契約書に「退去時スケルトン渡し」と明記されている場合は、遵守しないと契約違反となり、裁判を含む重大な法的トラブルに発展するリスクがあります。
また、契約書に直接「スケルトン」と記されていなくても、スケルトン状態で掲載された物件の写真に対し「この状態に復元する」と文言がある場合は、スケルトン渡しを行う必要があります。
質問2.スケルトン渡しにかかる費用を抑えるコツは?
スケルトン渡しに伴う工事費用を抑えるコツを紹介します。
まず、自分で処理可能な物は片付けてきれいにしておきましょう。不要な物はリサイクルショップに売るか、適切に処分することで、費用の一部を回収することも可能です。これにより、粗大ごみの処分費も節約できます。
次に、スケルトン工事を行う業者は、複数社から見積もりを取ることが重要です。見積もり内容を比較することで、必要以上の工事が省けることがあり、コスト削減につながります。
関連記事:【プロが教える】スケルトン解体とは?メリットや費用相場、安く抑えるコツを徹底解説!
質問3.スケルトン渡しよりも居抜きの方がお得?
コストを抑えたい場合、居抜き物件が魅力的に思えるかもしれませんが、その選択には注意が必要です。居抜き物件は、前の店舗の内装や設備をそのまま利用しますが、これがデメリットにもなり得ます。
居抜き物件は、レイアウトが決まっているため、店舗ブランドにあわせたイメージや個性が制限される可能性があります。
また、冷蔵庫やエアコンなどの設備は、使われていない期間が長いほど、劣化や故障のリスクが高まります。これにより、見かけ上は安い居抜き物件でも、結局は高額な設備交換費用が必要になるかもしれません。
加えて、契約時には内装譲渡金の支払いも必要とされるケースが多いです。このような追加コストを考慮すると、スケルトン渡しの方が、長い目でみると有利な選択肢となることもあります。
まとめ
「スケルトン渡し」は、内装が一切施されていない状態のため、借り主は心機一転して自由な設計で開業できるのがメリットです。ただし、それに伴う工期や費用は事前にしっかりと計画しておきましょう。
また退去時は、賃貸契約書の内容によって原状回復の範囲がどこまで必要か変わってきます。工事の範囲や手順に関して貸主との間に認識の違いが生じると、トラブルにつながることも少なくありません。
この記事を参考に、費用相場や注意点を理解した上で、「スケルトン渡し」や「居抜き」を検討しましょう。